獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「フィリックス様が、おいでになっているのさ。だから皆フィリックス様に一目お会いしたくて、集まっているんだよ」


どうやら、噂の商人フィリックスにようやくお目通りできるようだ。


アメリの目の輝きに気づいたエイダンが、「カウンターの端に座っている男だよ」と耳打ちしてから、手を挙げている客のもとへと向かった。


エイダンの言うように、カウンターの端にはフィリックスらしき男が座っていた。プールポワンと呼ばれる紺色の丈の短い上着に、グレーのズボンをはいている。プールポワンにはフードがついていて、頭がすっぽりと覆われていた。


隣にいる壮年の男がしきりに話しかけているが、グラスを手にしたフィリックスは時々短い頷きを返すだけだった。





ステンドグラスの改修費のお礼を言うタイミングを見図ろうと、アメリはカウンターの向こうに潜り込んだ。フィリックスは女嫌いだと聞いたので、慎重に行動した方が良いだろう。


「アメリ、葡萄酒を三杯用意して!」


「分かったわ」


客席から投げかけられたエイダンの声に従い、器を三つ用意して葡萄酒の瓶を手に取る。その隙にちらりと前方にいるフィリックスに視線を投げかけた。


そして、驚きのあまり瓶を落としそうになる。


目の前で、忘れもしない、二つの鋭い天色の瞳がアメリを凝視していたからだ。





瓶を手にしたまま、アメリは硬直した。


「どうして……」


失神しそうなほどの驚きと頭の中を駆け巡る無数の疑問は、そんな短い言葉にしかならなかった。


そこにいたのは、紛れもなくカイルだった。


紺色のフードからは癖がかった金糸雀色の髪が零れていて、鋭い瞳の光る非の打ちどころのない顔は、相変わらず見る者に戦慄を与える。


カイルの方でも、突然のアメリの出現によほど驚いているようだった。


隣の男に相槌を打つのも忘れ、凍ったようにアメリの顔を見つめている。
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