拾った彼女が叫ぶから

屋上デート2

「べ、別に言えって言ってるんじゃないからね! あんたの弱みを握ってどうこうするつもりも全くないし!」

 ああ、またとげとげしくなってしまった。いつもつい言い方がキツくなってしまう。反省はその度にしているのだが、上手くいかない。
 ルーファスを元気付けたいだけだったのに。
 目を丸くしたルーファスが一瞬の間を置いてふっと笑った。

「知ってますよ」

 それを見たら頬がかあっと熱くなる。彼の笑みは見惚れてしまう。それにその柔らかく低い声も、マリアを勘違いさせる。
 何より、こんな風に突っかかってしまってもクッションみたいにぽすんと受け止めてくれるから、ついつい甘えてしまう。
 いつもは勢いだけでぽんぽんと言葉を放つマリアも、なぜか今は不思議に気持ちが落ち着く。今いるのが、マリアの息抜きの場所だからだろうか。
 素直な気持ちがぽとりと零れ落ちた。

「ごめんなさい、いつもその、口が悪くて」
「気にしなくていいのに。むしろ僕は嬉しいですよ。マリアがそんな言い方になるのは僕の前でだけでしょう?」
「え? そうだったかしら」
「そうですよ。だから光栄です。もっとぶつけてもらってもいいくらいです」
「やだ、あんた痛みが快感に変わるタイプなの? ぶたれたらうっとりする?」
「ぶっ、なんでそうなるんですか。……さすがマリアです」
「ナァ──」
 
 ナァーゴがマリアたちに割って入る。「ごめんごめん」とルーファスがまたチーズを一口大にちぎって与える。どうやら催促だったらしい。いつの間にかこの一人と一匹は意思の疎通ができていてマリアは驚いた。マリアでさえ、警戒心をむき出しにしたナァーゴと心を通わせるのには時間がかかったのに。ナァーゴが素直にルーファスの手から食べている光景は、微笑ましくて心がゆるむ。
 ルーファスも心なしか、昼間よりもくつろいだ顔をしている。

 ──まあ、いっか。
 何もこの場で全てを打ち明けてもらえなくたって、マリアの秘密の場所で、彼が楽しそうにしているならそれで充分だ。マリアはナァーゴの白と灰色の毛がまだらに覆う耳を撫でた。邪魔にならないように、控えめに。
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