Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をｰｰｰ

　俺は、前から歩いてきた酔っぱらいからかばうふりで、さりげなく華月の肩を引き寄せながら言った。

「あきらめなければ、夢は叶う」
「……そうでしょうか？」
「そうだよ。華月ならきっと、優しい医師になれるだろうね」

　短い沈黙のあと、ふふ、と華月が笑った。
「不思議ですね。ケイさんに言われると、本当にそんな気になってきます」
「当然。今夜の俺は魔法使いだから」
　また華月が、ふふ、と笑おうとして……くしゃり、とその顔がゆがんだ。

「華月……？」
　足を止めて顔を覆うと、華月は震える声で言った。

「誰も……あきらめるな、とは、言ってくれませんでした。両親、先生、友人も……約束された幸せな未来を失ってまで、苦労の絶えない医者になる価値があるのかと……」
「でも、君にとっては、とても大切な夢なんだろ？」
「はい」
　華月は、涙をぬぐって暗い空に視線を向ける。

「先のことは、わかりませんもの。もしかしたら、両親が私の夢をわかってくれる日が来るかもしれません。それに、私の夫となる方は、病院の跡取り息子様なのです。いつかは私も医療に関わることができるかもしれないと、この結婚には少しだけ下心もあるんですの。私、結構しぶといんですのよ？」

　濡れた目で笑ったその顔から、俺は目が離せなくなる。