Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「私の学友が」
 しばらくして、ぽつり、と華月が言った。

「先ほどお話しした方ですが、お休みになるといつも恋人の方とデートにでかけるのだそうです。お食事に行ったり映画を見に行ったり。そんな話をしている時の彼女は、それはそれは幸せそうな顔をしていて……それを見ていて、デートってなんて素敵なんだろう、と、私、ずっと羨ましかった」
 膝を抱えて、華月は独り言のように続ける。

「だから、正式に結婚が決まる前に、彼女のように幸せなデートをしてみたかったんです。夫となる方がいらっしゃるのに、他の方とデートなんてできませんもの。でも、想像通りにはいかないものですのね」

 ため息をつきながら言った彼女に、俺も一つ、ため息をつく。
 そういうことだったのか。

「だったらさ」
「はい?」
「華月、最初から勘違いしてる」
「え……何が、ですか?」
 華月が、きょとんとした顔をあげた。
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