Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「それに比べうちのバカ息子は……お待たせして申し訳ありません」
「いえ、毎日お忙しいと聞きます。そのようなご多忙の時に時間を割いていただき、こちらこそ申し訳ありません。それに、バカ息子などと……何でも、高校大学とも、ほぼトップの成績を収められて卒業なされたとか。現在も大変優秀な医師でいらっしゃると聞いております」
「はは、学業は優秀でも、実践で使えるかどうかは、まだまだこれからの本人次第です。そういえば、華月さんは、医師になる気はありませんか?」

 唐突に年配の男性───岡崎が華月に話を振った。聞くともなしに二人の話を聞いていた華月は、初めて顔をあげる。

「医師、ですか……?」
「ええ。華月さんの成績を拝見しましたが、大変素晴らしい。これなら医学部にも進学できるのではないかと思いまして」

「この子は、勉強が趣味のようなもので、小さいころから成績は優秀でしたわ。ですがせっかく良い縁組をお持ちいただいたので、進学よりもこちらのお話を進める方が華月のためになると思いましたの」
 一之瀬夫人が、華月の代わりに畳み掛けるように話した。岡崎は屈託なく笑う。

「そうですか。うちとしましては、できることなら華月さんも医師だったらよいのに、と思っていたのです」
「え……?」

 華月だけでなくその両親も、予想外の言葉にぽかんとする。
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