Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
「うちはご存じのとおり岡崎病院として一族で理事をつとめ経営しておりますが、今はどこの病院でも医師不足です。ですから、うちの息子に嫁をもらうならぜひ医師を、と常々私たちは思っていたのです」
「は、はあ…」
 思ってもいないことを言われ、一之瀬は戸惑う。
(まさか、医者でないことを理由に断ろうと……?)

 一之瀬の動揺に気づいたのか、岡崎は笑顔で続ける。
「医師になると言っても、簡単なものではないことは身をもって知っております。医師であることが結婚の絶対条件ではありませんが、もし華月さんが……」
「あの、それは」
 華月は掠れる声で聞いた。

「私が、医大に進んでもいいということですか?」
 岡崎夫妻が一緒にうなずいて、夫人が口を開いた。

「もちろん、医師でなくてもこのお話を断ることはしませんわ。華月さんの人柄は聞いております。真面目に勉学に取り込み、何事も一生懸命で丁寧。こうしてお会いしましても、本当になんてかわいらしいお嬢様。うちは息子が一人でしたし、あなたが私たちの娘になってくれたらとても嬉しいわ」

 華月は、身を乗り出すように言った。
「私も、医師になりたいです」
「そう言っていただけるなら、うちとしては願ったりかなったりですね」

 驚きもせずに岡崎が言ったところを見ると、もしかしたら仲人の小暮から何か聞いていたのかもしれない。
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