最後の男(ひと)
「美味しい……。ねぇ、士郎はちゃんと食べたの?」

「ああ。だから、おまえは何も心配しないで好きなだけ食べたらいい。お粥もまだあるしスープもたくさん作ってある。味に飽きたら、ショウガ擦っておいたの冷蔵庫にあるから、豆腐と一緒にスープに入れれば中華風になるし」

「アレンジレシピまで考えてるなんて、弁当男子始めた頃は味見するも怖々だったけど、今は何の心配もいらないね」

「何年前の話だよ。さすがに成長するだろ」

士郎は少しぶっきらぼうに言いながら横を向いて鼻先を擦る。それは、学生時代に付き合っていた頃によく見かけた仕草だ。私に「好きだよ」「今日可愛いね」と言った後は決まって、自分から言っておきながら照れてしまうのか、よくよく見ると耳までほんのり赤くしていた時もあった。それももう遠い昔の話だけど。

「食べ終わったら薬飲んでまた寝ろよ。一応、明日もまた様子見にくるから」

「ありがと。でも、もう大丈夫だよ。士郎だって土日は貴重なお休みなんだから、することあるでしょ」

付き合っている彼女のこととか、それこそ家のこととか。土日も両方なんて、彼女には何て言って誤魔化すつもりなの? なんて、士郎が私のことを聞いてこない以上は詮索するなんてできない。お互いにセフレの距離感を保っているから、付き合っているときと違って喧嘩したりすることもないし、些細なことで波風立ててしまうこともない。

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