最後の男(ひと)
「明日どこか行きたいところあるか? 観光案内してやるよ」

すっかりお客さんとしてソファで寛いでいると、魚介のいい匂いが漂ってくる。これからお米を炊くより早いからと、今晩はパエリアにすると言っていた。あとは蒸らすだけだと、ワインとつまみを持った先輩が私の隣りに腰を下ろす。その瞬間、それまで落ち着いていた鼓動がまた小さく鳴り始めた。先輩がいる方の腕だけ、何だか熱い。

「本当ですか! ニューヨークに来たからには、Metには絶対行きたいなって思ってるんです。一日では時間が足りないって聞くので、どこから回ろうか考えてきたんです。あとは、MoMAにも。時間があれば、Metは分館の方にも行ってみたいです」

「美術館ばっかりだな。ブロードウェイは興味ないのか?」

「日本でも観劇はあまり行かないのでこの機会にとは思ったんですけど、当然全編英語ですよね。セリフ追うのに精いっぱいで楽しめないかもしれないので、先ずは、空いた時間にタイミングが合ったものを観てみようかなっていう感じです」

「そっか。俺もこっち来たとき奨められて一回観に行ったけど、内容が自分には合わなかったのか、それっきりなんだよな。美術館の方は何時代に興味があるんだ?」

「一番は古代エジプトです。中世ヨーロッパも好きです」

「じゃあ、ブルックリン美術館も楽しめると思うよ。隣接している植物園もゆっくりできるし。春だったら桜が観れたけど、週末は人が多くて落ち着かないんだよな」

「なんか以外でした。先輩、結構観光に行ってるんですね」

「忙しい時は忙しいけど、日本にいた頃よりは大分時間は取れてるよ。こっち来てからは自炊するようになったし、ホームパーティーに呼ばれる時は何か一品持っていくから、レパートリー増やすためにっていうのもあるけどな」

先輩は言い終わると、そろそろいいかなと席を立ったから、小皿の用意くらいはと私も後に続く。

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