最後の男(ひと)
「キッキン用品も食器も充実してますね」

「ああ。ここ社宅だから、前に住んでいたファミリーがいらないものを置いていったんだよ。おかげで揃える手間が省けて助かった」

棚から取り出した取り皿とカトラリーをはい、と言って私に渡すと、先輩は手にミトンをしてパエリア鍋の両端を持ち上げる。

「その鍋も譲り受けたものですか」

「そう。一人だと大きすぎて使わないけど、来客があるときはな。簡単に出来て見栄えもいいし、俺の定番」

「そのお客様って、男の人ですか? 女の人ですか?」

「おっ。一香、気になるの?」

何も考えずに口をついて出た言葉だったけど、先輩の揶揄うような口調と視線に、そこではっとする。

「違います! 単純にどっちなのかなって思っただけで他意はなかったです」

先輩が意味を持たせるような言い方をするから、可愛げのない言葉が出てしまう。なのに先輩はそれにもめげずに、ついと視線を背けた私に対して、明らかにさっきよりも面白がって追い打ちをかけてくる。

「イチカ~。そこは嘘でもうんと言っておくとか、それともツンデレか?」

「もうっ! 本当に違うんです。昔の先輩はこんな意地悪じゃなかったですよね」

「ほら、やっぱツンデレじゃねーか」

何だかんだ言いながらも、ソファに着いてしまった。
あからさまに、人ひとり分の間を置いて座った自分の行動が嫌になってしまう。
先輩と距離を縮めたくて13時間も飛行機に乗ってきたのに、こんなにも不器用な人間だなんて思ってなかった。

「ほら、一香。イチカちゃん、こっち向いて」

自分でも収拾がつかなくなって、どんな顔をして先輩のことを見ていいのか分からなくなる。私が一番嫌いな、面倒くさい女になってしまっている。

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