最後の男(ひと)
「先輩っ、私!」

「ああ、もうっ」

口を開いたのは同時だった。
そのことで私は一瞬躊躇ったけれど、先輩は違っていた。
私に向かって伸びてきた先輩の腕に後頭部を引き寄せられると、次の瞬間には唇が重なっていた。先輩の肉厚の唇はふっくらしているのに弾力があって、その温度も触れているだけで気持ちがいい。
最初、戯れるみたいに軽く重なったりたまに離れてみたりしていたキスは、段々と熱を帯びて、気付けば、唇の隙間から侵入してきた先輩の生温かい舌に咥内隈なく蹂躙されて、思う存分暴れた先輩がようやく離れていった頃には息も絶え絶えになっていた。

「せん、ぱい……」

靄がかかったみたいにぼんやりした頭では、先輩を呼ぶ声も舌足らずになってしまう。

「友親、だろ」

「トモチカ……」

先輩のキスで魔法にでも掛かったみたいに、今度は素直に呼んでいた。

「よし。じゃあ、飯にするか。先ずは空腹を満たさないことには、がっついてしまいそうだ」

先輩は困ったように笑うと、擽るように手の甲で私の頬を一撫でする。
なのに、次の瞬間には、いつもの平静な先輩に戻っていて、手際良くパエリアとサラダを取り皿に分けていく。
あんなに凄いキスをして私の体に火を点けておいて、先輩にとっては取り立ててどうってことのない、よくあるキスの一つだったのだろうか。
今度は私の方が焦らされているような気がしてきて落ち着かなくなる。とはいえ、意地悪な先輩のことだから、そんな私の一挙手一投足を見て楽しんでいるのかもしれないと思うと、乗せられるわけにもいかない。

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