最後の男(ひと)
いただきます、と手を合わせてから、さっそく先輩一押しのパエリアを頬張る。シーフードと香辛料の食欲をそそる香りがあっという間に口中に広がる。

「ん! 美味しい! 隠し味にカレー粉使ってます?」

「少しキツかったか?」

「大丈夫です。私も魚介系の料理作るときには少しだけ入れるんですけど、ふんわり香りだけしてちょうど良いですよね」

「口に合って良かった。即席だけど、ピクルスも味付いてると思うよ」

奨められたピクルスは、セロリと人参、キュウリを漬けたものだ。

「先輩、本当に普段から料理してるんですね。男の人からピクルスっていう言葉、初めて聞いたかも」

「料理もそうだったけど、何でもやってみるまではハードル高いけど、実際してみるとできないことってそうはないよな」

「それは、先輩が何でもできる人だからじゃないですか」

「確かに、人より器用なのは認めるよ。だからって、何でも努力しなければ上達もしないけど。俺、やればできると思うけどやらないだけ、とか言うの嫌いなんだよな。自分には何ができてできないのか、そういうの知っておきたいんだよ」

「自分の限界を知りたいって事ですよね。そう思えるのって凄いですよね。でも、もし色々やってみて、できない事の方が多かったらショックは大きいですよね」

「誰にだって苦手な分野はあるはずだから、そういうところは人に頼むなり外注するなり、上手に折り合いつけていければいいんだよ」

「そこは柔軟なんですね」

「仕事でも何でも、一人で背負い込むと精神的にも肉体的にもしんどい時ってあるだろ。そこを各分野に長けている人に上手に振り分ければ、お互いメリットもあるし学ぶこともできる」

確かに、先輩は社内でも人脈が多い。
私がある案件で苦戦している時に、他部署に適任がいるからと紹介してくれた事がある。
自分の力量を知ることは時に辛いことでもあるけれど、自分にとっても周囲にとっても必要なのかもしれない。

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