最後の男(ひと)
翌日、先輩と私には、ロマンティックな朝は訪れなかった。
うっかり良かった相性のせいで、これまでの積りに積もった欲望が開花して、朝方までノンストップだったから。
先輩の宣言通り、私の足腰はガクガクで立ち上がれないし、先輩も精魂尽きたかのように目が覚めてからもグズグズだった。
とはいえ、先輩はホテルのチェックアウトの時間に合わせて支度を始めると、私の代わりにキャンセルの手配に行ってくれて、私は今一人で先輩のベッドの上で微睡んでいる。
きっとお互い、これは由々しき事態になったと思っているはず。
努力しなくても最初からぴったり当て嵌まって、違う意味で怖い。
家事の分担の他に、追加する事項が一つ増えてしまった。
「一香、そろそろ起きれるか」
玄関の方から物音が聞こえてきて、続いて先輩の声が届く。
毛布に包まっている私の横に腰掛けた先輩は、私の髪を優しく撫でた。
「スタスタは無理ですけど、100歳のおばあちゃん位には歩けます」
「いいな、それ。一香がおばあちゃんになった姿、見てみたいな」
「その頃には、先輩だっておじいちゃんですよ」
「……なぁ、一香。俺たち、ずっと仲良くしていこうな」
先輩は、急に神妙な面持ちになって、静かに話し始める。
「どうしたんですか、急に」
「ホテルからの帰り道、ぴったり寄り添っている老夫婦を見掛けたんだよ。お互い髪が真っ白で顔だって皺だらけ。おばあちゃんの方が赤い口紅してなかったら、下手したら性別も分かんないくらい顔も似ていて、違うのは背丈位なのに、歩く歩幅は一緒なんだよ。きっと最初はどっちかが合わせていたんだろうけど、もうそんな事はしなくても染み付いてるみたいな。今までも同じようなカップルを見た事があったはずだけど、その時は全然ピンとこなかったのに、さっきはしみじみ思ったんだよ。‘死がふたりを分かつまで’って、ああいう姿を言うのかなって」
「理想ですよね。そういう歳の取り方」
「俺もそう思う。だから、これ」
そう言って、先輩がジャケットのポケットから取り出したのは、手のひらに収まるサイズのリングケース。
うっかり良かった相性のせいで、これまでの積りに積もった欲望が開花して、朝方までノンストップだったから。
先輩の宣言通り、私の足腰はガクガクで立ち上がれないし、先輩も精魂尽きたかのように目が覚めてからもグズグズだった。
とはいえ、先輩はホテルのチェックアウトの時間に合わせて支度を始めると、私の代わりにキャンセルの手配に行ってくれて、私は今一人で先輩のベッドの上で微睡んでいる。
きっとお互い、これは由々しき事態になったと思っているはず。
努力しなくても最初からぴったり当て嵌まって、違う意味で怖い。
家事の分担の他に、追加する事項が一つ増えてしまった。
「一香、そろそろ起きれるか」
玄関の方から物音が聞こえてきて、続いて先輩の声が届く。
毛布に包まっている私の横に腰掛けた先輩は、私の髪を優しく撫でた。
「スタスタは無理ですけど、100歳のおばあちゃん位には歩けます」
「いいな、それ。一香がおばあちゃんになった姿、見てみたいな」
「その頃には、先輩だっておじいちゃんですよ」
「……なぁ、一香。俺たち、ずっと仲良くしていこうな」
先輩は、急に神妙な面持ちになって、静かに話し始める。
「どうしたんですか、急に」
「ホテルからの帰り道、ぴったり寄り添っている老夫婦を見掛けたんだよ。お互い髪が真っ白で顔だって皺だらけ。おばあちゃんの方が赤い口紅してなかったら、下手したら性別も分かんないくらい顔も似ていて、違うのは背丈位なのに、歩く歩幅は一緒なんだよ。きっと最初はどっちかが合わせていたんだろうけど、もうそんな事はしなくても染み付いてるみたいな。今までも同じようなカップルを見た事があったはずだけど、その時は全然ピンとこなかったのに、さっきはしみじみ思ったんだよ。‘死がふたりを分かつまで’って、ああいう姿を言うのかなって」
「理想ですよね。そういう歳の取り方」
「俺もそう思う。だから、これ」
そう言って、先輩がジャケットのポケットから取り出したのは、手のひらに収まるサイズのリングケース。