暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
腰まである黒髪を耳にかけ、髪が乱れぬようドレスに似た赤い飾り物でパチン…と留める。
唇には真赤な紅を塗られ、眉を軽く整えさせられると身支度が終了した。
「先程とは別人のようですわ!」
「お綺麗です!さぁ、鏡をご覧くださいませ」
メイドに言われるがまま、部屋に設置されている鏡付きドレッサーにて、姿を確認してみる。
そこに映っていたのは、キラキラと輝く衣装や飾り物で身を良くして貰ったいつもとは違う私がいた。
「お名前をお聞きしておりませんでしたね」
「………アニと申します」
「では、アニ様。今後、この宮殿にいる以上、私(わたくし)の様なのに敬語はお辞めください。アニ様は陛下の客人で有らせられます」
私は里で暮らすただの娘であり、宮殿で働くただのメイドだ。
そんな者が身分を偽り、陛下の客人としてこの宮殿にいて良いのだろうか。
これは皆や国を騙す重罪になりかねないか心配だ。
「陛下に会いに行きたいです。案内してはくれませんか?」
「…………………かしこまりました。それと先程言いましたが使用人に敬語はお辞めください。ましてや陛下の前ではごもっともです」
「あ……………………わかったわ」
(中々この口調で話すのは馴れないものね……………)
メイド達にとって上の者が下の者に敬語を使うのは可笑しいのだろう。
確かにそれは分かるのだが、実際は私の方が身分的に下な訳で、いきなり敬語を使うなと言われる方が大変だ。
…………これは当分苦労しそう。