彼は私の全てだった
気がついた時、シュウはもう居なかった。

私はベッドの上に寝かされ
タオルケットが身体にかけられていた。

私は結局はシュウと一緒には逝けなかったのだ。

でもそのことに少しホッとしている。

鏡を見ると首に赤く締められた痕が残っている。

私は服を着てシュウを探したが
シュウは何処にも見当たらなかった。

次の日もその次の日もシュウは私の前に現れなかった。

仕事も無断で欠勤して私は不安になった。

もうこのままシュウは本当に帰ってこないかもしれない。

シュウは独りで逝ってしまったのこもしれない。

そう思うと居ても立っても居られなくなった。

そんな時、マネージャーに呼ばれた。

中村さんも来ていて、2人にシュウのことを聞かれた。

「もしかして小泉くんの事、何か知ってる?」

私は何から話していいか分からない。

困っていると中村さんがマネージャーに

「ちょっと二人で話してもいいか?」

と聞いた。

マネージャーは中村さんに私を任せてホールに出て行った。

「小泉と何かあった?」

私はシュウのことを話せる範囲で話して
中村さんに助けを求めた。

「このままもしシュウが…命を絶つなんてこと考えたら…」

「落ち着いて。大丈夫だから。

小泉の事は俺が探すから
柿沢さんは仕事に戻って。」

中村さんがそう言って私の肩を叩いた。

それだけで少し安心する。

その夜、シュウは自分から店にやってきた。

そしてマネージャーに退職届を出した。

「すいません。無断で休んだ上に勝手に辞めるなんて言って…。」

「何かあったのか?」

中村さんも来て3人で何か話していた。

私はシュウの事が気になっていたが
仕事中でどうにもならなかった。

中村さんもマネージャーも説得してくれたようだが
シュウの意思は固く退職届は受理されてしまった。

そしてシュウはそのまま私の前からまた姿を消してしまった。

それでも私はただこの世の何処かで
シュウが生きててくれることに感謝した。
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