毒舌社長は甘い秘密を隠す

「就職してから、特別な人はいないんです」

 入社するまでは、同じ大学に彼氏がいた。
 でも、就活中に他に好きな人ができたと言われ、迷うことなく別れを選んだ。そんな彼氏よりも就活の方が大切だと思ったからだ。
 だけど、それでよかったと思う。おかげで井浦社長に憧れて働いていられたし、今は恋をしている。
 片想いだけど、今の方が幸せだと思えるから、これでよかったのだ。


「そうでしたか……。もしかしたら、井浦社長とお付き合いされているのかな、なんて思ったこともあるんですけどね」
「えっ!? 私と井浦がですか? まさか、そんなことはありません」
「結構、他人の恋愛ごとにはよく気づく方だと自負しているんですが……。あ、お昼に行くとしても、ちょっと時間が早いので、先に用を済ませてもいいですか?」
「はい」
「実は、元秘書として話したかったのもありますけど、物件を内見するのに付き合ってほしかったんです」

 と言われても、九条さんの彼女には話してないらしく、やっぱりちょっと申し訳なく思う。
 後で知ったらいい気はしないはずだし、私だったら浮気を疑ってしまいそうだ。

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