毒舌社長は甘い秘密を隠す
「素敵だと思いますよ。でもちょっと場所が駅から遠いかもしれませんね。それから、公園が近いのはいいんですけど、夜の人通りや街並みがどんな感じなのか気になりました」
「なるほど、そうか。夜に女性がひとりで歩くことも考えないといけないか……」
「あっ、すみません。偉そうに意見してしまって」
「いいんです。そのために沢村さんに来ていただいているんですから」
お役に立てるならなによりだ。
営業部にいた頃の知識がこんな時に生かせるとは思いもしなかったけれど。
「ちょうどランチタイムになりましたね。なにか食べに行きましょうか」
「はい」
好き嫌いや食べたいもの、オススメの店などを話しながら、九条さんの横で都内の景色を眺める。
いつも以上に人が多い渋谷の駅前を過ぎ、やがて白金高輪の街にやってきた。
閑静な街並みは、連休の人混みなどなく平穏を保っている。
「私の行きつけでもいいですか? きっとどこに行くにしても混んでいるでしょうから」
「はい。九条さんにお任せします」
「助かります。車を停めるのに駐車場を探すのもひと苦労するのでね」
慣れた様子で路地を入り、一軒の白亜の洋館の前で車が停まった。