毒舌社長は甘い秘密を隠す

 黒のギャルソンエプロンをした男性店員が、彼の車を見つけるなりドアを開け、こちらにやってくる。


「九条様、ようこそいらっしゃいました」
「こんにちは。急に来てすみません」

 なんて丁寧なお出迎え。プライベートでこんな待遇を受けたこともない私は、さすが九条家の人だと改めて運転席の彼を見る。


「お車、そのままにしてください。こちらで隣の駐車場に停めますので」
「ありがとうございます」

 しかも、ホテルのようなサービスまでしてくれるなんて聞いたことがない。
 先に車を降りた九条さんは、私をエスコートして店へ入れてくれた。


「お二階の席でよろしいでしょうか?」
「ええ、いつも通りでよろしくお願いします」
「かしこまりました。ご案内いたします」

 一階席は、ランチを食べながら上品に歓談しているマダムの姿が多い。家族連れの姿も見受けられるけれど、明らかにこの界隈に住んでいる雰囲気だ。

< 119 / 349 >

この作品をシェア

pagetop