毒舌社長は甘い秘密を隠す
入口近くの木目の螺旋階段を上った先には、たった一組の席だけ設けられていた。
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
「あ、ありがとうございます……」
店員がメニューを置いて去っていく。他に誰もいない二階を見渡していると、九条さんが小さく笑った。
「井浦さんに、こういうところ連れてきてもらえてないんですか?」
「ないですよ。お客様とご一緒させていただくことがたまにあるくらいで、井浦とふたりで出かけることはないです」
「なんか意外ですね」
「……どうしてですか?」
メニューを見ても、価格表記がなくて戸惑う。
そんな私に気づいたのか、彼は店員にランチのコースを頼んでくれた。
「見ていて、そんな感じがしていたんです」
さっきから、社長と私が付き合っていると思っていたことがあるだとか、九条さんは嬉しい勘違いをしてくれている。
でも、そう思われるのがどうしてなのかが気になった。