毒舌社長は甘い秘密を隠す
それから美味しいイタリアンをご馳走になって、ゆっくりと話していたら十四時三十分を過ぎていた。
九条さんが永井ホールディングスで秘書をしていた頃のいろいろな経験談を聞けて、とても有意義だった。
やっぱり永井社長は井浦社長のような傍若無人なタイプではないようで、とても優しく社内の誰にも平等な人らしい。
だけど、井浦社長が冷たいのは、それだけ気を使わずに仕事に専念できる環境を求めているからだろうとも言われた。
たしかに、彼の人柄が冷たいとは思えない。
営業部にいた頃、会議資料を作っただけなのに『とてもよくできていた』と褒めてくれたのは、他でもない社長だったのだから。
それが彼と初めて接したきっかけになったけれど、それからも社内で顔を合わせれば優しく微笑んでくれて……。
今も、他の社員には変わらず優しい。
冷たいとか毒舌だとか、そういう彼を知っているのは秘書室の同僚と役職者に限られている。
「我儘を言ってくるなんて、かわいさ余ってのことなんじゃないかなと思いますよ」
九条さんは、私がつい浮かれてしまいそうになることを平気で言う。
だから、なんだかその気になって頬が緩んでしまった。
井浦社長が私を特別に好いているなんて、現実的じゃないけれど。