毒舌社長は甘い秘密を隠す

 レストランを出て、一路ベイエリアへと車が向かう。
 明日から仕事なのは九条さんも一緒で、夕方頃には自宅へ送り届けると言ってくれた。


「もうひとつだけ、物件を見てもいいですか?」
「はい」

 車を路肩に寄せて、内見の担当者に連絡を取った彼は、通話を終えて再び車を走らせる。


「九条さんって、本当に素敵な方ですよね」
「え? そうですか?」
「彼女さんの喜ぶ顔を見るために一生懸命で……。大切にされていて羨ましくなります」
「喜んでくれるといいんですけどね。付き合って三年になるので、そろそろ年貢の納め時かなとも思っているんです」
「そうだったんですね!」

 九条さんも結婚を考えてるのか……。
 相手もいない私は、どんどん周りに置いて行かれているみたいで、なんだか焦る。
 焦ったっていい恋ができるとも限らないのに、その先にある幸せの形が自分も手にできるのか分からなくて、不安になってきた。

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