毒舌社長は甘い秘密を隠す
九条さんの車を停めた、マンション前の来客用駐車場に向かう。隣接しているそこまでは五分とかからないけれど、その間もそびえ立つ二棟のタワーを見上げ、私には手の届かない生活空間だと改めて思った。
だけど、井浦社長の部屋に今夜から……。
何度考えても、やっぱり実感が湧かない。
社長の気まぐれや悪い冗談なんじゃないかと、特に連絡のない現状が思わせる。
約束すら忘れられていたら、ひとりでドキドキしながら過ごしたこの数日を返してほしい。
「……九条さん?」
後方から声をかけられ、隣を歩く九条さんの足が止まった。
振り返る彼の視線を追って、私も振り向く。
「井浦さん、こんにちは」
「こんにちは。どうしてこちらに?」
「物件の内見をしていたんです。井浦さんは?」
「私は、こちらが自宅なもので」
社長は私と目を合わせても、なにも言わない。
休みの日に取引先である九条さんと勝手に会っていることを咎める様子も感じられない。
ただ、にこやかに微笑んでいるだけだ。