毒舌社長は甘い秘密を隠す
社員通用口から正面入口に回ったけれど、車寄せには当然タクシーは停まっていない。社用車を使うにも、運転手は既に帰宅している。
四月とはいえ、夜はそれなりに肌寒い。
お酒が入った社長をいち早く休ませるのが最善と考え、タクシー会社に手配の連絡をしようと社用携帯を手にした。
「沢村さん、行くよ」
「っ!? はい」
正面入口でトレンチコートを着るために立ち止まっていた社長が、振り返ることなく歩きだす。
「社長、ご自宅に向かわれますか?」
「そのつもりだ」
会社の前にある幹線道路の歩道に立つ彼を、隣から見上げる。
「タクシーでしたら、私が停めますので」
「いい。業務時間外に働かせるつもりはない」
行燈を灯して走ってきたタクシーに向かって、社長は大きな手を掲げた。
業務時間外の勤務をさせないのは当然のことだと思うけれど、日頃の毒舌を浴びすぎているのか、少しの気配りで嬉しいと感じている自分に気づいてしまった。