毒舌社長は甘い秘密を隠す

 先に社長を後部座席に乗せようと譲ったら、怪訝な顔をされた。


「これで帰りなさい」

 押し込まれるようにタクシーに乗せられ、強引に渡された一万円札が膝の上にひらりと落ちた。


「あ、あの、社長は」
「俺も帰るから大丈夫だ。運転手さん、目黒まで。それじゃ、また明日」

 自動で閉まったドアの向こうで、私を見送ることなく次のタクシーを待っている社長の姿が遠くなっていく。

 なんだかんだ、井浦社長は優しい。
 私が心配していることを分かってくれているだけで、秘書としては満足だ。


「素敵な社長さんですね」
「え? あ……はい」

 不意に運転手に話しかけられて、戸惑った。

 確かに素敵な人だ。
 毒舌じゃなかったら、秘書になって距離が近くなった分、本当に恋をしてしまっていたかもしれない。

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