毒舌社長は甘い秘密を隠す

 朝食を済ませ、メイクにとりかかろうとしたら、彼が玄関に向かうのが見えた。


「では、本日もよろしくお願いいたします」
「朝から堅いなぁ。会社にいるわけじゃないんだし、もっと軽い感じにしてよ」
「軽い感じ、ですか……」

 ステンレスの靴べらを使って丁寧に革靴を履いた彼は、玄関の靴箱の扉にある姿見でネクタイの結び目を確認している。


「行ってらっしゃいませ」
「うん、それもいいね。でも、明日からは〝行ってらっしゃい、響さん〟でよろしく。じゃ、また会社で」

 唖然としている私をそのままに、彼は颯爽と出かけてしまった。


 ――ひ、響さん!?

 新婚夫婦の朝を彷彿とさせる彼のひと言に、頬を両手で包んでその場にうずくまる。


「い、行ってらっしゃい……響、さん」

 小さな声で呟いたら、お洒落なスーツ姿の彼が微笑んで『行ってくるよ、優羽』と返してくれる想像が浮かび、朝から頬が緩んでしまった。
 だけど、そんなことが言えるとは思えないし、彼だってきっとからかっただけだろう。

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