毒舌社長は甘い秘密を隠す
時間になって、彼の父親がやってきた。
オールバックにセットされたロマンスグレーの髪に、重厚感あるダブルのスーツを着こなす素敵な紳士だ。
背丈は社長より少し低いけれど、それでも六十代には見えない若々しさを保っている。
午前中は、いずれ彼が後継する時のためにも、今の経営状況や今後の方向性などについて意見を交換する大切な時間。
そして、親子ならではの朗らかな空気で世間話を合間に挟んだりと、さほど堅苦しくない。
もちろん会議内容は他言無用。秘書として知っておくべき内容以外、聞き流して忘れるに尽きる。
円滑に会議は進み、ランチを挟んで午後になった。
続々とグループ企業の役職者が集まり、全体の会議となる。私は社長の隣で持ち込んだノートパソコンに議事録を取った。
だけど、ずっと午前中のことが頭から離れない。
社長に、縁談話が持ち込まれたからだ。
彼は『見合いなんてしなくてもいい』と言っていたけれど、彼の父親としては一種の政略婚の意味もあるようだ。
海外の不動産会社の令嬢が相手と聞いて、私は不戦敗を悟った。
「それでは、沢村さん。頼みましたよ」
「かしこまりました。本日はありがとうございました」
会議の終わりに、彼の父親が私にも声をかけてくれた。
丁寧に頭を下げて見送ると、会議室の片付けを済ませて自席に戻った。