毒舌社長は甘い秘密を隠す

 まさか、私が彼の自宅にいるなんて、彼の父は考えもしないだろう。
 しかも秘書の私が、彼に片想いをしているなんて気づくはずもない。


「沢村さん、お疲れ様。作ってくれた資料、本当に助かった!」

 ランチタイムが合わず、やっと留美さんと話をする余裕が生まれたのに複雑な気分でいっぱいだ。


「お役に立ててよかったです。下田マネージャーにも伝えておきますね」
「うん。でも、彼にはさっきお礼をしてきたから大丈夫よ。八神さんからも助かるって言ってもらえて、本当によかった」
「……仕事とはいえ、会うのはつらくないんですか?」
「諦めるために、無理にでも前を向こうとしてたの。だって、告白すらできずに終わるなんて不完全燃焼で……。でもね、今日八神さんに〝いつもありがとうございます。頼りになる秘書さんがいてくださってよかった〟って言葉をかけられて、なんだか救われちゃった。秘書としてでも、彼のためにはなるんだって思えたから」

 留美さんは、ホッとしたような穏やかな微笑みを私に見せてくれた。

 私はどうだろう。社長が海外の令嬢と結婚を決めてしまっても、彼の秘書として毅然としていられるかなぁ。
 過去の想いなんてきっぱり捨てて、仕事に邁進して日々を過ごせるのか……いくら考えても想像できなかった。

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