毒舌社長は甘い秘密を隠す

 初めて、会社から晴海のタワーマンションに帰宅した。
 いつもと帰路が違うことも、エントランスでコンシェルジュに丁寧に出迎えられるのも慣れなかった。

 社長は実家に寄ってから帰るらしい。食事も済ませてくると言っていたし、しばらくはひとりぼっちだ。

 帰りに寄ったスーパーで買った食材で料理をして、食事を取った。
 今までひとり暮らしだったから平気なのに、広すぎる部屋にいるせいで必要以上にしんみりしちゃって、食べた気がしなかった。


「結婚、考えてるんだなぁ」

 友達も、九条さんも、社長も。
 私だって、もちろん考えてはいるけれど、スタートラインにも立てていないというか……相手は、令嬢とお見合いをする予定だし、片想いを続けるしかなさそうだ。

 深くて重いため息をついたら、なんだか失恋した気分になった。
 留美さんも、似たような気持ちで数日過ごしていたのかもしれないなぁ。
 私はきっと、彼女みたいに強くなれないと思う。社長が結婚して、この部屋に相手と暮らして、やがて子供ができて……。
 幸せな家庭を守るためにも、仕事をする彼と毎日顔を合わせていられるとは思えなかった。

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