毒舌社長は甘い秘密を隠す

「これじゃないって言ったはずだが」
「あっ! すみません。ただいまお持ちします」

 金曜の午前。今なら社長の手も少し空いているだろうと、客先向けに作成した資料の確認をお願いするため、社長室にいる彼にデータを入れたタブレットを渡した。
 だけど、考え事をしながら作業していたせいか、間違えてしまったようだ。

 しっかりしなくちゃ。私の片想いが仕事に影響するようでは、社長秘書失格だ。
 彼の顔に泥を塗るようなことは、あってはならないのだから。


 自席に戻って、提出する方の資料を改めてタブレットに入れ直し、社長室に入って手渡す。
 確認している彼は、とても真剣なまなざしで目を通している。


「あぁ、あとスケジュールだけど。来週のどこかで九条さんが来るそうだから、予定を調整してくれ」
「かしこまりました。予定が決まりましたらご報告いたします」

 九条さんとは連休以来会っていない。
 永井ホールディングスが手掛けている新しい海外ウェディングリゾート施設の案件にかかわっていると耳にしたから、おそらく日本と現地を行き来して忙しくしているのだろう。

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