毒舌社長は甘い秘密を隠す

 別棟の物件をとても気に入っていたけれど、引越しは済ませたのかなぁ。そうだとしたら、社長に挨拶に来そうなものだけど……。
 あ、もしかしたら、来週はその件で九条さんがいらっしゃるのかもしれない。
 きっと、そう遠くないうちにいい報告が聞けると思ったら、自分のことのように嬉しく感じる。


「資料はこれでいい」
「ご確認ありがとうございます」
「なんだか嬉しそうだな。九条さんが来るから?」

 タブレットを受け取った私に、社長が怪訝な顔で言った。

 業務外とはいえ、私が少しでも役立ったなら嬉しいと思う。
 それに、あの日からお会いしていなかったから、もし報告のために来社されるなら、是非お祝いしたい。


「はい、嬉しいです。お忙しくされているようなので、なかなかお会いできずにおりましたから」

 素直に答えただけなのに、社長はとてもつまらなそうな顔をした。


「戻っていい。午後は出かけて直帰する」
「お車のご用意はいかがされますか?」
「いらない」
「かしこまりました。失礼いたします」

 会社での彼は、冷たくて毒舌。家ではあんなに優しくて穏やかなのに。

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