毒舌社長は甘い秘密を隠す

 コンシェルジュから受け取ったスーパーの袋が、アイランドキッチンの背面にある作業台に置かれた。


「魚料理か。いいね」
「できあがったら声をかけますね」

 袋から食材を出し、先に料理を始めた。
 今日の献立は、スモークサーモンとカマンベールチーズのピンチョス、野菜たっぷりのミートローフと鯛のアクアパッツァ。

 下処理の済んでいる鯛の身に十字の切れ目を入れて、ステンレスのバットに移した。次に、にんにくとブラックオリーブをみじん切りにしていると、アイランドキッチンの反対側に彼がやってきた。


「手際がいいな、本当に」
「あとは味だって言いたいんですよね?」
「よくわかってるじゃん」

 彼らしい意地悪を言うけれど、その表情を見れば、出来上がりを楽しみにしてくれているのだと分かる。


「社長の分だけ、激辛ソース入りにしてもいいですか?」
「そんなことをしてみろ。来週から仕事量を倍にしてやる」

 冗談を言い合いながら、ミニトマトを湯剥きして、砂抜きの済んだあさりを軽く洗う。
 同時にミートローフを型にいれ、焼きあがりまではオーブンに任せた。
 最後に、アクアパッツァができる間のつまみで、スモークサーモンにチーズと野菜を巻き、丸皿に並べた。

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