毒舌社長は甘い秘密を隠す
十八時半の定時を回っても、秘書の仕事はまだ残っている。
明日の業務の準備のほか、来社する取引先が気に入っているお茶菓子などを手配する必要があるからだ。
「銀座に寄ってから直帰します。お先に失礼します」
「沢村さん、お願いします。お疲れ様でした」
ついでに常務のお客様に出すお茶菓子も、近くの店で売っているので私が一緒に買ってくることになった。
汐留にある会社から銀座までは、歩いて十五分。
平日の夜でも賑わっている銀座の街で、ひと際風格のある老舗の【東央百貨店】に入る。地下の食料品売場に降り、人気洋菓子店のショーケース前に並んだ。
「フィナンシェとマドレーヌを十個ずつください」
目当ての商品が無事に買えて、ひと安心。
あとはお遣いを頼まれた和菓子店のカステラだ。
先輩から聞いた商品のメモと携帯を手に、大通りを隔てた区画の裏路地にある和菓子店【立花】へ向かおうとしたら、不意に社用携帯が鳴ってバッグから取り出した。