毒舌社長は甘い秘密を隠す

「社長は、井浦リアルエステートの社長になるみたいよ。お父様が会長になるのを機に、グループ内の人事が動くから、沢村さんも覚えておいて」
「……はい」

 どうせなら、社長から話してほしかったな。
 毎日一緒にいるのに、なぜ言ってくれなかったんだろう。そんな話があったなら、九条さんの話は控えたのに。

 そう思うと同時に、彼が私の身の振り方を気にかけてくれているのは、その影響もあるのではと気づいた。


 留美さんと食事をして、帰宅したのは二十一時を過ぎた頃だった。
 今日は社長も実家にいると言っていたから、今日くらい目黒の自宅に帰ったっていいのに、少しでも彼の気配が感じられる部屋に帰ってきてしまった。


「ただいま帰りました……」

 真っ暗なリビングの明かりを点ける。
 出かける前の光景と変わっていないのに、彼がいない夜がこんなに寂しいと思わなかった。

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