毒舌社長は甘い秘密を隠す
「沢村様、本日は井浦様より来訪の制限を承っております。アポイントはお済みでしょうか?」
会社の受付と大差ない対応に、この物件の格を知った。
さすが大企業の御曹司ともなると、こういう生活が普通なのだろう。
「先ほど、電話がありましたので伺った次第です」
「かしこまりました。井浦様へ確認いたしますので、少々お待ちください」
カウンターにある備え付けの電話で、社長の部屋に繋いでいるようだ。
こんなに高級な空間に慣れていない私は、コンシェルジュが社長と話している間、つい視線を泳がせてロビーの内装に見入ってしまった。
「沢村様、お待たせいたしました。確認が取れましたので、ご案内いたします」
「ご丁寧にありがとうございます。ですが、部屋番号は存じておりますので、大丈夫ですよ」
エレベーターで四十五階まで行くだけのために、わざわざ案内してもらうのは気が引けて遠慮する。