毒舌社長は甘い秘密を隠す
招待されている竣工式に向かう時間になり、地下駐車場までエレベーターで降りた。
礼服を着た社長はとても凛々しくて、社用車の後部座席に並んで座る彼を何度も横目で見てしまう。私もロッカーに常備しているフォーマルスーツに着替え、いつも以上に気が引き締まっている。
「落成祝賀パーティーには、君も出席してくれ」
「はい。その予定でおります」
「今後やり取りを密にしていく客先の役員もいるだろうから、一緒に挨拶回りを頼む」
「かしこまりました」
今後やり取りをする客先に私を会わせるのは、おそらく社長が異動になった後のことも考えてくれているのだろう。
新宿の一等地に建設された二十階建てのビルは、得意先の八神グループが経営する老舗呉服店だ。
歴史ある蔵のような旧店舗の外観はそのまま残され、少し奥まった形で近代的なビルが建てられた。国内外のアパレル企業を傘下に納めているだけあって、本社だけではオフィスが足りなくなり、和装と国内部門の一部を新社屋に移動させるらしい。
到着して車から降りると、既に関係者が多く来ていた。
見渡すと、先着していたうちの千堂副社長と談笑している八神さんの姿を見つけた。