毒舌社長は甘い秘密を隠す

 いただいた新社屋のパンフレットをバッグにしまい、顔をあげると社長の不服そうな表情と対面した。


「いかがされましたか?」
「君が微笑んだからか、八神さんも嬉しそうだ」
「そうですか? 今後もお世話になる方ですので、いつも通りに接したまでですよ」
「俺だけ見てろって言ったのに、わかってないんだな」
「社長? ……仰っている意味が」

 分かりかねます、と言おうとしたら、くるりと踵を返して会場内に入っていってしまった。


「沢村さん、社長は?」
「先に中に入られました」
「まったく、ひと声かけてくれりゃいいのにね。沢村さんも行こう」
「はい」

 連絡を終えて戻ってきた千堂副社長と連れ立って社屋に入り、指定された席に着いた。


 その後、厳かな空気に包まれながらも竣工式が進む中、出席者の中に九条さんの姿を見つけたので、終わってから社長を引き留める。


「社長、九条社長を先ほどお見受けしたのですが」
「わかってる。さっき俺も見かけた。なんせこれだけ出席者がいるから挨拶もままならないよ。後で声をかけることにする」
「かしこまりました」

 一路、ホテルへ向かう車中でも、彼はなんだか不服そうなままだ。

< 306 / 349 >

この作品をシェア

pagetop