毒舌社長は甘い秘密を隠す
数分で到着したホテルの車寄せに降り立つと、続けて後方に大型のセダンが停まった。
「井浦さん」
降りてきたのは、礼服をキリッと着こなした九条さんだった。
竣工式の会場を後にする時も、九条さんは他社の役員と思われる白髪の男性と話し込んでいたのを見かけたから、挨拶する時間が見つけられて、少し安心した。
「こんにちは。九条さんにお声掛けするタイミングを見つけられず、すみません」
「いえいえ、こちらこそ。今日はそれにしても人数が多いですね」
「天下の八神グループですからね。他業界とはいえ、彼の人脈はあなどれませんよ」
「仰る通り」
ふたりが並んでホテルに入り、ロビーのソファで話し出したのを見届けて、パーティーの受付を済ませるために指定された宴会場へ向かう。
九条さんには近々返事をしなくてはいけない。
もう答えは決まっているけれど、それは私が社長への想いを封印すると誓うようなものだ。
彼が結婚を決めるまで許された片想いは、あとどれくらいで終わってしまうのかな。
芳名帳に社名と彼の名前を書いたら、なんだかとても切なくなった。
彼は、私にとって最高の上司。この距離が縮まることはないのだろう。