毒舌社長は甘い秘密を隠す
出してくれたスリッパを借り、彼の背についていく。
通されたリビングは四十畳ほどはある。大型のソファにオーディオセット、お洒落な観葉植物が置かれているけれど、家具はどれもシックな色合いで男性の部屋という感じがする。
リビングからの眺望は素晴らしくて圧巻だけど、今は感動している場合ではない。
「お加減はいかがですか?」
「大したことはない」
いつも通りの素っ気ない口調だけど、その姿は明らかに弱っているように見えた。
「お食事はとられましたか?」
「いや……眠っていたからな」
「それではダメです。消化のいいものをすぐに用意しますので、キッチンをお借りします」
私に小さく手を挙げると、社長はフラフラとソファに座ってしまった。私が勝手にリビングの一角にあるアイランドキッチンに立って冷蔵庫を開けても、なにも言わない。
それほど、彼は具合が悪いのだろう。