毒舌社長は甘い秘密を隠す
「沢村さん」
「先ほどは、失礼いたしました」
「気にしないで。俺が仕掛けたことなんだから」
シャンパングラスを持った九条さんに話しかけられて、すぐに詫びた。
話を聞けば、実際に私を引き抜こうとしてくれていたらしく、ありがたいお話を断ることに少なからず申し訳なく感じているからだ。
「先ほどは途中で失礼しました」
「いえいえ。他の方々とお話されなくていいんですか?」
「大方済ませましたので、そろそろ失礼しようかと」
他の客先と話していたはずの社長が、私の元にやってきて手を引く。
戸惑う私を前に、社長は堂々としているし、九条さんはやわらかく微笑むばかり。
「井浦さん、お待ちください」
「なんでしょうか?」
「沢村さんのことは諦めました。ですので、彼女を絶対に手放さないでいただきたい」
「もちろんです。それ以外の選択肢など、最初からありませんよ」
強気な視線で答えた彼は、九条さんに一礼して私を連れ出した。