毒舌社長は甘い秘密を隠す

 クルーネックの黒いニットの袖を適当に捲ったまま、彼はキッチンにいる。
 元々私が使っていたものだからそんなに数は多くないけれど、ひとつずつ丁寧に洗ってから食器棚にしまってくれようとしているようだ。

 他にも、シューズクロークに入れた靴も一足ずつ丁寧に並べてくれたらしく、もうじき出番になるブーツはコンシェルジュに手入れを頼んでくれた。


 ひと通り片付け終え、ソファに座る。


「お疲れ」
「あ、ありがとうございます」

 彼が気を使ってコーヒーを淹れてくれた。隣に腰かけた彼も、ひと口飲んでからふうっと息をついている。


「……響さん」

 まだ呼び慣れなくて、声に出す前に間を取ってしまう。でも、呼ばれた彼も少し照れたような表情をするから、それだけで嬉しく思う。


「手伝ってくださってありがとうございました」
「彼女の引越しを手伝うくらい、普通だよ」
「でも、食器とか靴とか、丁寧にしまってくれて助かりました」

 意外と手間のかかる片付けも、彼がいなかったらまだ終わっていなかったはず。

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