毒舌社長は甘い秘密を隠す

 食事ができたら声をかけると言ったものの、リビングを出て呆然とする。
 廊下が左右に分かれていて、彼がいるであろう主寝室の場所がわからないのだ。


「社長ー?」

 少し声を張って呼びかける。
 だけど、眠ってしまっているのか、それとも聞こえていないのか返事はない。
 どうしようか悩んだ末、失礼を承知で右に延びる廊下の先へ向かうことにした。

 いくつかあるドアの先には、使っていない様子の洋間が二部屋あった。それから、バスルームなどの水回りやミニキッチンもあって、ここだけで生活できるほど設備が整っている。


 だけど、肝心の社長の姿はない。
 引き返して玄関を通り過ぎ、左側の廊下へ進む。
 同じようにいくつかドアがあったけれど、納戸やバスルームだった。
 まさかこちら側にも水回りがあるとは思っていなかったから、豪勢な暮らしぶりに思わずため息が漏れる。

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