毒舌社長は甘い秘密を隠す

 こちらに背を向けていた社長が寝返りを打った。

 その顔はやっぱり少しつらそうで、いつも毒舌を吐く彼とは別人のようだ。
 だけど、フードをかぶっている姿が昨日見た社長の姿と重なってしまい、つい笑いそうになる。
 まさに、超イケメンのアルパカだったのだから。


「こちらで食べられるのでしたら、お持ちします」
「いや、ダイニングまで行くよ」

 熱のせいでおぼろげな瞳には、日々私を突き刺す鋭さはない。
 その代わり、甘えるような潤んだまなざしを向けられて、不覚にもきゅんとしてしまった。


「なにを作ってくれたんだ?」
「温かいうどんです。それから、少しでも食べられるようになった時のために、野菜粥もあります」
「あとは味だな……」

 一瞬でもかわいいと思ったのを撤回する。やっぱり寝込んでいても、社長の毒舌は変わらないらしい。

 だけど、彼が重たそうに上体を起こしてベッドから出ると、新規ご契約者様向けに作成した数量限定のアルパカ抱き枕が布団の中に残されていた。

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