毒舌社長は甘い秘密を隠す

 井浦社長は九条さんのように誠実で真面目なタイプではなく、天性の女たらしだと思う。
 そうじゃなかったら、仕事中に浮かれた会話を堂々としたりしないだろう。

 それでも、社長と一緒に過ごす時間が重なるたびに、彼の魅力の虜になってしまうのだ。私に限らず、多くの女性がそうであるように。

 そんな人だって分かってるのに、嫉妬めいた気持ちに火が点いてしまいそう。
 自分の想いを再認識したばかりなのに、もっと近づきたいと欲が顔を出そうとするから、意識的に仕事に集中して気を逸らした。


「あとは、なにか用ですか?」
「会議資料をまとめますので、預かってよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうか。じゃあこれを頼む」

 微笑みひとつ向けられなくとも、一緒にいられるだけで嬉しい。
 彼にとって私が必要な存在だと実感できるのが、この上ない幸せなのだ。

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