毒舌社長は甘い秘密を隠す
九条さんを連れて、社長が食事に出たのは十八時三十分過ぎ。
私は、秘書室の一角にある給湯室で、お出ししたお茶などを片付ける。
「社長、どちらに出かけたの?」
「銀座か赤坂あたりだと思います。プライベートに近い食事だと仰っていたので、気兼ねなく過ごせるお店に行かれているはずです」
常務が好んでいる焙じ茶の茶葉を茶筒に詰替えている留美さんに、それとなく聞かれて答えた。
「留美さんって、どうして八神さんが好きなんですか?」
「なに? 急にそんなこと聞いて」
不意を突いた私の問いかけにも、留美さんは動じない。
「深い意味はないですよ。でも、あんな評判の人なのにどうしてなのかなって思っていたので」
「街ですれ違ったときに私のことを覚えていてくださったの。挨拶程度しかしたことなかったのに、びっくりしたわ。それに和装がとても似合って素敵でしょ? ……沢村さんは? どうして社長のことが好きなの?」
「えっ!?」
誰にも知られているはずがない気持ちを見透かされ、持っていたカップを落としそうになってしまった。