毒舌社長は甘い秘密を隠す

 すぐに上昇してきたエレベーターに先に乗って、操作盤の前でドアを開けていると社長が乗り込んできた。


「沢村さんは、これから食事?」
「はい」
「遅くまでかかる仕事があるのか?」
「いえ、月曜の準備を進めていただけですので」

 ふたりきりになることなんて珍しくないのにドキドキする。
 自分の気持ちを意識すればするほど、彼と距離を置きたくて、限界まで離れようと壁に身体の右側をぴったりと付けて立った。


「それならいいが……あまり無理をしないように」
「はい、ありがとうございます」

 なんだかんだ言って、こうして気に留めてくれるのは彼の優しさだ。
 どんなに忙しくても無関心な経営者がいると聞いたことがあるし、うちは仕事環境や人間関係については十分配慮されている企業だと思う。
 だから、毎年のように新入社員が多く入ってくるし、離職した社員は業界内でも非常に少なく評価が高い。

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