毒舌社長は甘い秘密を隠す

「お邪魔いたします」
「適当にしていいから」
「はい……」

 と言われても、どう過ごしていいのか分からない。
 この前は看病という目的があったけれど、今日は彼の勝手で連れてこられ、広いリビングに居場所すら見つけられずに立ち尽くす。


「なにしてるんだ? 突っ立ってたって俺のことは癒せないって分かってるだろ?」
「癒す、ってあの……」

 スーツジャケットを脱いで戻ってきた彼は、ソファに部屋着を放ると、キッチンに置かれているウォーターサーバーで水を飲んだ。


 大人の男性が求める癒しとはどういうものか、考えを巡らせる。
 お酒の後だから、汁物の夜食を作ったらいい?
 それとも、ゆっくり眠れるようにマッサージでもしたらいいかなぁ。

 私が帰った方が寛げるはずなのに、彼はそう思っていないようだ。

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