恋を知らない
マリアとカナが気色ばんでぼくらのほうへ歩を進めた。ふたりの顔色がさっと変化していた。セックスするときの甘い顔ではない。ぼくらを見張る看守の顔だ。
「どうしたの?」
「いやあ、悪い。ちょっと生理現象。野郎ふたりでトイレ、行ってくるわ」
マリアのきつい問いに、キョウが、なんでもないんだ、と手をパタパタとふって見せる。
ぼくはいやおうもなしにトイレまで引きずっていかれた。
マリアとカナはもちろんその近くまでついてきた。ぼくらが脱走したり、ほかの女性と接触したりしないように見張るのも、マリアロボットたちの重要な仕事だからだ。
男子トイレの中は広かった。小便器が10個くらい並び、通路をはさんでその向かいには個室が7、8室並んでいる。行列ができるほどではないが、利用者は多かった。
ぼくは空いている個室のひとつに無理やり連れこまれた。
キョウはドアを閉めてロックすると、ようやくぼくの腕を放してくれた。
「なんだよ、一体」
ぼくが文句をいいかけると、キョウは唇に人さし指を当て、他方の手でとなりの個室のほうを指さした。
となりの個室とはパーテーション1枚をへだてているだけだ。パーテーションの床部分は空いており、天井部分も空いている。