恋を知らない
少女はまだ目を閉じている。ぴくりとも動かない。
ようやくぼくは気がついた。
箱の中に腰かけた姿勢でいるのは「めぐみ」に似せて作られたマリアロボットだったのだ。
「どう、よくできてるでしょう? 待ってね。今、移るから」
「え? 移る……?」
何のことを言っているのかよく理解できないでいるうちに、マリアは少女の前にひざまずいた。少女の小さな手の甲に自分の手のひらを重ねる。
ぼくがようやく思いいたってやめさせようとしたときには遅かった。
ひざまずいたマリアの体が力を失って、少女のひざの上に倒れこみ、続いて滑るように床に崩れ落ちた。
と思うと、少女が目を開いた。
どちらかというと小さなつくりの目だ。ちょっと生意気な感じのその目でぼくをまっすぐに見て、ほほえんだ。
ドキリとした。
そこにいるのは、まぎれもなく「めぐみ」だった。