恋を知らない
「めぐみ」は体をゆすって詰め物のウレタンの固定を外し、立ち上がりながら箱から出てきた。白いソックスで床のカーペットを踏みしめる。
「どう、いいでしょ?」
「めぐみ」は鼻高々といった顔で、ぼくの前でくるりと一回転してみせた。傘がひらくようにミニのプリーツスカートが開いた。下着は見えなかった。腿の上のほうまで見えただけだった。それでもぼくはドギマギして、目をそらした。
「ど……どうして?」
やっとのことで、それだけ言った。
「どうしてこの姿のあたしがここに来ているのか。訊きたいのはそこでしょ?」
その通りだったから、ぼくがうなずくと、少女は説明した。
「だってシュウはこの女の子と出会ってから、ずっと気にしてたでしょ? コンサートホールの前で見かけて、写真も撮ったし。今日だって映画館で出くわしたら、うろたえちゃって。うふふふ」
少女は笑った。マリアの笑いかただった。
そう、そこにいるのは、姿形や声は「めぐみ」でも、中身はマリアなのだった。
そしてぼくは、「めぐみ」のことが実はマリアに筒抜けだったことに、少しショックを受けていた。