恋を知らない
言われて思いだした。「めぐみ」というのは、ぼくが勝手につけた名前だった。
「いや、それは……」
説明しようとしたが、「めぐみ」のマリアの怒りに気おされ、うまく言葉をつなげられなかった。
「この体の元になった女の子は、『めぐみ』なんていう名前じゃないわ。この体を作るときに協会のほうで調べたんだもの。間違いないわ。ということは、ショウがつけた名前なのね?」
「……ああ」
やっとのことでうなずいた。
「ひどいじゃない。一年半もいっしょに暮らしたあたしには名前をくれないくせに、ちらっと見た女の子には名前をつけてやるの?」
「何言ってるんだ。『マリア』って……」
ちゃんと「マリア」という名前をつけて呼んでいるじゃないか、と思った。
「何よ、『マリア』って。マリアロボットそのままじゃない。飼い猫に『ネコ』って名前つけるようなものだわ」
「そんな……」
そんなことはない、と答えようとして、言葉に詰まってしまった。
確かに、マリアと暮らしはじめたとき、マリアロボットだから安直に「マリア」と名づけたのだった。マリアの言っている通りだったのだ。