「英国の月は、暁に映る恋に溺れる」
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目下に暗雲を抱いた空はやがて雷鳴を轟かせたのち、大粒の雨を地上に落とし始めた。
涙雨がオフィスの大きな窓にぶつかって、透明なガラスに無数の波紋を広げていく。
私はその光景を呆然と目に映しながら先生との記憶を頭の中に溢れさせていた。
否が応でも繰り返される初めてお会いした日から今日までの充見先生との時間。
それは一重にようやく先ほど受話器を置いたマリさんから告げれた衝撃的な事実のため......。
「編集長......。今、三間さんから連絡がありまして.......、充見先生が......」
長電話の末、ようやく受話器を置いたマリさんは普段見せる穏やかな表情を一変させて、おそらく今まで社内の誰にも見せたことがないであろう悲愴感に満ちた表情をして、ただでさえ色白の顔色を一層蒼白させながら編集長のもとへと駆け寄っていった。
終始マリさんと受話器の向こうの相手とのやり取りを横目で意識していた私は瞬間的に悟った。
充見先生に何か良くないことがあったんだ、それもかなり悪いことがあったんだーー!
そう分かった途端に不安になり、激しい動悸に襲われた。
合点が行く......。
いつもは必ず届いている充見先生からのメールが今日に限って来ていないこと。
始業のタイミングを狙ってオフィスにかかって来た電話。
もし、充見先生ご本人からの電話ならオフィスではなく、直接私のスマホにかかってくるはず。
充見先生ご自身が連絡できない状況で、さらにマリさんのあの様子ーー。
電話の内容を編集長に報告するマリさんは肩に力が入り今にも卒倒しそうに身体が震えていた。
「充見先生が......、亡くなりました......」